国民皆保険 11 / 明細付き領収書
Posted by guideboard on 2007/10/08/Mon
本記事の原典は、2006 年 6 月 18 日、http://sword.txt-nifty.com/guideboard/2006/06/__75ce.html にアップされた。原典は削除された。
キーワード
健康保険、医療費、明細、領収書、領収証
2006 年 4 月の健保改定で、医療機関は健康保険診療の際、患者さんに医療費の内容が分かる領収書の発行することが義務づけられた。
しかし、どこかおかしいことに気付かないだろうか。
1. 内容の明細
医療の内容は、診察、その上でインフォームコンセント、検査、さらにインフォームドコンセント、治療、結果の説明、診療の各段階で患者さんに説明されている。どういう検査、治療がなぜ必要か、高度、高額な医療になるほど丁寧に説明されているし、風邪ひきの診療でも、腰痛の診療でも、使う薬の効能の説明をしたり、X 線写真の必要性と結果の説明をしているだろう。
医療の内容を、スーパーのレシートのような明細で表せるわけがない。
もしも告知していない癌、精神疾患の場合などではどうするつもりなのか。
2. 明細発行論者のバックグラウンド
これを主張している勢力は、それぞれの立場で次のように考えているのではないだろうか。
厚生労働省
診療報酬の様々な不合理の説明を医療機関に押し付ける。
診療を萎縮させ、医療費の削減に資する。
医療費の不正請求を減らせられる。
レセプト開示の負担を少しでも減らす。
弱小医療機関を潰す。
さらなる IT 化、すなわち、レセプトオンライン化、カルテ情報集約化、すなわち医療の国家管理につなげる端緒となる。
経済産業省、IT 業界
IT 化で、全国 15 万軒以上の個人診療所に新たな出費をさせることができる。医療データそのものが商品、あるいはサービス産業の原材料となり、業界が潤う ( NTT データがその代表で、レセコン、電子カルテメーカー、ソフトウェア業界、さらにそれぞれのサービス業者が多数連なっている )。
財界
診療を萎縮させ、医療費の削減に資する。結果として企業の社会保険負担が減る。
弱小医療機関を潰し、医療機関を統廃合してチェーン、フランチャイズのシステム下におき、サービス産業として再編、利潤を上げるためのスケールメリットを追求する。
国民皆保険を破壊し、医療を産業、商品、サービスとして、儲けの道具にする ( 奥田碩経団連前会長の言行を見れば分かる )。
健康保険組合 ( 主に健康保険組合連合会、通称健保連 )
診療を萎縮させ、医療費の削減に資する。
医療費の不正請求を減らせられる。
労働組合 ( 主に連合 )
明細書発行は医療費削減に役立ち、労働者に相対する階層である医師を叩く、すなわち労働者から資本家に渡った富を再配分させる一環である ( 古い考えかもしれないが、こういう精神は底辺に息づいているだろう ) と信じている。
民主党
バックの労働組合の言うことをそのままに、医療費の削減に資すると信じている。
医療を攻撃することで飯を食っている評論家らの言うがままに、医療費の不正請求を減らせられると信じている。
与党勢力、すなわち自民党と日医を攻撃する材料になる。
念のために言っておくが、数年前、厚生労働省の元指導医療官が医療費不正請求は年 9 兆円、などと妄言を吐き、それがいくつかの新聞雑誌に取り上げられ、さらに国会で野党から取り上げられたのだが、実際にはもっと少ない。
本当の不正はわずかである。2003 年では、63 億円が判明しただけである。例えば、一昨年、私の近所で眼科医院が不正請求で保険医停止 2 年の行政処分を受けたが、その不正額は 65 万円余りであった。報道では数億円単位の事例が報道されるが、それらは氷山の一角ではなく、特異な少数例である。数兆円の不正を働こうと思ったら、約 25 万人の医師が一人当たりどれだけ不正をすればよいだろうか。
多くの人が不正請求と信じているもののが過誤請求で、そのほとんどが患者の保険受給者資格喪失やレセプトの病名漏れだ。あとは、保険者と医療者とでの診療報酬点数表の解釈の違いに基づき、保険者が医師の裁量を認めなかった場合のものだ。これらが 3,000 億円程度のオーダーであると言われている。
ここで不思議なことは、国民、勤労者の生命、健康を守るべき労働組合が、財界すなわち雇用者側、保険者すなわち医療資源の配給側と共同歩調で明細発行を主張し、医療を叩いていることだ。その尖兵が勝村久司氏 ( 医療情報の公開・開示を求める市民の会、陣痛促進剤による被害を考える会、全国薬害被害者団体連絡協議会 ) である。財界は、経団連をはじめとした、日本のいわゆる勝ち組の勢力であり、国民皆保険下の日本の医療を破壊してそれを儲けの種にしようとしているのだ。中医協委員に推された氏は、なぜ中医協委員になれたのか、財界を結果として利すること、あるいは財界に利用されていることを分かっているのだろうか。
参考リンク
数字でウソをつくな! (その2)
医療費の内容が分かる明細書
参考資料