Guideboard

JBM / 安全のためには 4 / 安全設計

Posted by guideboard on 2007/10/07/Sun

本記事の原典は、2006 年 8 月 3 日、http://sword.txt-nifty.com/guideboard/2006/08/_4_6b27.html にアップされた。原典は削除された。


キーワード
医療、事故、安全、フェイルセーフ、fail safe、フォールトトレラント、fault tolerant、フールプルーフ、fool proof

どんなベテランでも、人はミスを犯す。どんなに注意していても、いつもやり慣れている仕事に細心の注意を払っても、どこかに間違いは起こる。

航空機、原子炉などを代表に、システム全体、人もソフトウェアもハードウェアも、エラーが起こっても安全が確保される設計がなされる。それでも航空機、原子炉の事故は起こる。

医療もこれらと同じレベルの安全、信頼を持たせたシステムを設計するべきだが、では、現在の医療資源、医療財政、マンパワーでそれはかなうだろうか。

日本人の竹槍思想は、医療に今も息づいている。医師はミスを犯さず、疲れを知らず、名医は最初から名医であるはず …..

マンパワーを養成し、システムを設計し、という思想は、元々日本人にはない。徒弟制度の名人芸しか理解できない。医療は政府の統制を受けているシステムであるが、統制する政治家、官僚にそういう考えが元々ない。すべて現場でなんとかしろ、だ。

———-

安全、というものを科学、システムとして考える。その基本の、ほんのさわりを復習してみる。

フェイルセーフ
システムには必ず誤った動作が発生するということを念頭に置き、誤りが発生した場合にも、常に安全側にその機能が働くようにする設計思想。
簡単な例では、電気回路のヒューズ。壊れても安全な方へ転ぶ。

フールプルーフ
なんら知識をもたない者が誤った動作をさせても事故に至らないようにする仕組み、または知識を持たずとも簡単に操作できるようにした相反する仕組みを組み込んだシステムを設計する思想。
簡単な例では、飴の瓶の蓋は、幼児が自分で回して開けることができないように、押し込んでから回すようなものにする、など。

冗長性
システムが壊れても代替システムが稼働すること。あらかじめ、システムの故障を見越して、普段は無駄になってしまう予備を備えておくこと。代替システムは普段は全く働かないものだが、これがある事でいざという時のシステムの信頼性が高まる。
例えば、米国大統領府は、有事には大統領と副大統領を同じ場所から引き離すようにする事も、この考え方の一つ。

—–

手術室内での麻酔事故のような場合についても、取り組みはなされていた。例えば、酸素と笑気の配管は、あるとき、つなぎ間違いで患者さんが死亡する事故があって以来、口金があわないような規格が決められた。酸素の管と笑気の管はどうやってもつながらないようになった。

しかし、患者さんが病院を訪れ、すべての検査と治療が終わって医療が必要なくなるまで、すべての段階にフェイルセーフ、フールプルーフ、冗長性を取り入れたシステムを作る事は、理想ではあるが、現実には不可能である。どんなシステムを設計してもどこかにヒューマンエラーが起こりうる。

しかもかけることができるコストは有限であるだけでなく、近年、日本では医療にかける費用をケチる事が政策として国民の支持を得ている。

手術中のミスで患者死亡 = 人工呼吸器の装着間違う – 神戸大病院
時事通信 2000.10.22
神戸市中央区の神戸大学医学部付属病院(中村肇院長)で、市内の女性患者(64)の手術中、医師が人工呼吸装置の呼気と吸気のバルブを間違って補助装置を取り付けたため、女性が酸欠死したことが22日、分かった。

この件の麻酔医は大ベテランであった。しかも体外循環を使う手術であるから、この大学病院の麻酔設備の最も良い機種が使われた事だろう。モニター類もそうである。麻酔医も複数ついていただろうし、術野に立たない外科医が周りにいただろう。最もコストがかかる手術と麻酔であったはずだ。

それでも、一カ所、フールプルーフでない部品があった。麻酔機と患者をつなぐ人工呼吸用の送気チューブに取り付ける PEEP バルブ。これが呼気側、吸気側、どちらにも付けることができてしまった。それを反対に付けてしまったのだ。

術中の低酸素、気道内圧の異常は装置のアラームによって知らされ、患者の情報は様々なデータやグラフとして、ディスプレイ上に表示されていたに違いない。

そこに起きた担当麻酔医の小さいエラー、それが何重ものチェックポイントをくぐり抜けてしまった。

厚生労働省の調査に対し、神戸大学側は麻酔医個人のエラーであるとし、システム上は PEEP バルブ内蔵型の麻酔器に取り替える事で同種の事故が起きない対策を取ったとした。それには 1 台あたり何百万円ものコストをかけた機種更新が必要である。安全にはコストがかかる。それができない医療機関は淘汰されるいうことだ。

ただし、日本中のほとんどの病院では、これと同程度の対策を取る事は無理だろう。ナショナルセンターと一部の国立病院でしか実現しない対処法。国立病院も独立行政法人となった現在、どれだけのコストを安全にかけられるのか。人件費を削って、という事では安全は実現しないのだが。

———-

医療の安全は、他のシステムと同じ、エラーや事故の積み重ねとともに進歩する。最初から完全なシステムはない。ただ、そのエラーが発生する状況にたまたま居合わせた人間には、日本は刑事罰で臨む。

航空機事故でも、最初に調査を始めるのは警察だ。これは捜査と言った方がよい。証拠は警察が握ってしまう。航空機鉄道事故調査委員会は警察より遅れてやって来る。

日本の司法は、国策なのか、医療事故で医師の刑事処分に熱心だ。上記の神戸大学の事件では、某所ではこういう事がささやかれていた。

先日の麻酔科の事故は、(当初の識者の指摘通り)麻酔科医のミスと患者の死亡の間には直接の因果関係はないと言う事になったみたい。ま、あの記者会見での発表直後から、疑問の声は多かったけどね。

麻酔医の刑事処分、そしてこのたびの医道審議会での処分は、何か有益なものを医療にもたらしただろうか。この事件の真実は、私には分からないし、刑事裁判で真実が明らかになる事もないだろう。

asahi.com 2006.8.2
医師と歯科医師計 32 人処分、医療関連は 9 人 厚労省

参考資料

JBM / 安全のためには 4 / 安全設計資料
JBM / 安全のためには 4 / 神戸大学麻酔事故資料

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Connecting to %s

 
Follow

Get every new post delivered to your Inbox.