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JBM / 安全のためには 2 / 風の息づかい資料

Posted by guideboard on 2007/10/06/Sat

JBM / 安全のためには 2 / 風の息づかい

毎日新聞社説 2005.12.27
社説:特急転覆 安全管理で浮ついてないか

4月の兵庫・尼崎の悪夢がよみがえった。山形県の羽越線で起きた特急「いなほ」の脱線転覆事故。先頭車両は今度も線路脇の建物に激突し、車体を「く」の字形に曲げていた。閉じ込められた乗客の救出に時間を要したのも、尼崎の事故と同様だ。死者4人、負傷者三十余人を数える痛ましい事故である。乗客が少なかったのがせめてもの救いで、込んでいれば、さらに大きな惨事となっただろう。尼崎の事故後、鉄道事業者は安全対策に万全を期していたはずだが、年も変わらぬうちに再発させるとは利用者への背信行為だ。取り組みの姿勢や関係者の意識を疑わずにはいられない。

強い横風が原因、とみられている。運転士も「突風で車体がふわっと浮いた」と話しているという。雪国では冬の嵐に見舞われ、台風並みの強い風が吹き荒れることが珍しくない。その風にあおられたらしい。現場付近の風速は毎秒約20メートルで減速規制するほどでなかったというが、平時と同じ時速約100キロで最上川の橋梁(きょうりょう)を渡ったことに問題はなかったか。突風とは言いながら、風の息づかいを感じていれば、事前に気配があったはずだ。暴風雪警報下、日本海沿いに走るのだから、運行には慎重であってほしかった。

風速25メートルで速度規制、30メートルで運転中止--というマニュアルに違反していない、との説明にも納得しがたいものがある。設置場所が限られた風速計に頼っているだけでは、危険を察知できはしない。五感を鋭敏にして安全を確認するのが、プロの鉄道マンらの仕事というものだ。しかも86年の山陰線余部鉄橋事故などを引き合いにするまでもなく、強風時の橋梁が危ないことは鉄道関係者の常識だ。ましてや「いなほ」は秋田県の雄物川では風速25メートル以上だからと徐行したという。現場では計測値が5メートル低いと安心していたのなら、しゃくし定規な話ではないか。

国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会は直接の原因だけでなく、列車の遅れとの関係、運転士や列車指令の強風への危機意識なども徹底的に調査し、再発防止に資する具体的な提言をすべきだ。

惨事を繰り返しても、関係者の安全意識が高まらないことが歯がゆくてならない。JR西日本では先月、30カ所のカーブなどに設置した自動列車停止装置(ATS)が設計ミスのため、通過列車が速度超過しても作動しない状態になっていたことが発覚し、問題となっている。JR各社の在来線では国鉄の分割・民営化後、輸送障害と呼ぶトラブルが増加し、他の大手私鉄よりも安全面で劣っていることを示す国交省統計もある。

鉄道のほか航空機、バス、タクシーも規制緩和された後、コスト削減によって安全面で不安が生じているとの指摘が相次いでいる。耐震偽造事件でも民間が参入した建築確認のあり方が問題化したが、経済規制を緩和しても、安全面までむやみに緩めるべきでないことは言うまでもない。この際、公共交通のすべてについて、安全対策を総点検すべきである。

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毎日新聞 2006年2月7日 東京朝刊
開かれた新聞:委員会から 12、1月度 JR羽越線転覆事故の社説をめぐって
毎日新聞「開かれた新聞」委員会の12、1月度見解を報告します。今回は、昨年12月25日に山形県庄内町で起きたJR羽越線の特急脱線転覆事故を扱った毎日新聞の社説「安全管理で浮ついてないか」(12月27日朝刊)が「風の息づかいを感じていれば、事前に気配を感じていたはずだ」と指摘したことなどに対し、読者から多数の批判意見が寄せられた問題を中心に取り上げます。

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◆JR羽越線転覆事故の社説をめぐって

◇12月27日社説該当部分
現場付近の風速は毎秒約20メートルで減速規制するほどでなかったというが、平時と同じ時速約100キロで最上川の橋梁(きょうりょう)を渡ったことに問題はなかったか。突風とは言いながら、(運転士が)風の息づかいを感じていれば、事前に気配があったはずだ。暴風雪警報下、日本海沿いに走るのだから、運行には慎重であってほしかった。

◇読者から「非科学的すぎる」と指摘
社説「安全管理で浮ついてないか」の内容や表現に関して、読者の方から「非科学的すぎる」などといった意見が集中しました。毎日新聞は常々、社説でも一般記事でも(1)高みから見下ろして一方的意見を押し付けない(2)独りよがりの記事は避ける−−ようにしています。

◇責任追及優先の精神風土反映、構造分析取り組み未熟−−柳田邦男委員(作家)
日本の精神的風土の中では、事故の構造的原因を技術的・論理的に分析する事故調査と責任者を追及する刑事捜査・行政処分などの過失責任論とが明確に分離されず、責任追及の発想が優先され、科学性をもった構造分析の取り組みが未成熟だ。今回の社説は、そういう文化状況が論説委員のモノの見方にまで浸透していることを示す典型だ。投書で批判された社説中の文章や表現への疑問は、正鵠(せいこく)を射ている。

「風の息づかい…」の主張については、運転士に「事前に気配」を感知する能力を求めるというむちゃな要求を突きつける主張になっている。自分が運転士の立場になって、吹雪の中を走る運転席に座った時、社説のような感知能力を持てるだろうかと考えるなら、この主張は科学的に無理だということに気づくだろう。

また、社説は「五感を鋭敏にして安全を確認するのが、プロの鉄道マンらの仕事」と指摘している。精神訓話としては耳によく響く言い方だが、あいまいで安全対策にほとんど役に立たない。当事者は、そこから具体的な教訓や対策の手がかりをつかむことができない。

◇記者の高ぶり、当然表れる 学者の論文ではない−−吉永春子委員(テレビプロデューサー)
突風下の列車運行に関する読者の指摘も一部当たっていると思う。しかし、山形・庄内に暮らす住民から見れば、「今日は突風がありそうだ」など、ある程度の予測はできたのではないか。筆者がそれを「風の息づかい」と表現したとすれば、その点は理解できる。ただ、過去の同様な列車事故がどれだけ教訓として生かされているかについて、もっと掘り下げているとより説得力があった。社説は、学者の論文ではない。日々のニュースに接して、感情が高ぶったり、憂慮したりする記者の心が当然表れる。社説に冷静さのみを強調し、求めるのは誤りではないかと思う。

◇「社」の立場の制約、思わぬ逸脱 無署名の危うさ自覚を−−玉木明委員(フリージャーナリスト)
社説は「社」の「説」であって、論説委員の「私」の「説」ではない。筆者は「社」の立場を仮構し、そこに身を移して書くことになる。その作法上の制約から思わぬ逸脱も生まれる。
「風の息づかい…」というような文章には違和感がある。筆者が気づかなかったとすれば、「社」の立場で考えているからに違いない。JR関係者、運転士を断罪する文脈が目立つのもそのためだろう。社説(無署名記事)の危うさには、よほど自覚的でなければならない。

◇筆者の怒りは伝わったが、確かな現場感覚が必要−−田島泰彦委員(上智大教授)
顔の見えない無味乾燥で角の取れた社説が多い中、書き手の怒りや息づかいが伝わってくる珍しい社説だが、多くの批判が寄せられているように、正確な事実や科学的な論拠に欠け、感情的、独断的な議論や、現実とかけ離れた精神論になってしまっては説得力をもつことができない。優れた社説を生み出すためには、熱い思いを支えられる、豊富な取材経験で培われた確かな現場感覚と知識が求められるのではないか。また、論説内部の相互批判など、チェックのあり方も検討が必要だ。

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◆最近気になったこと
最近の他の社説で、内容や表現などで気づいたことがあれば指摘して下さい。

◇表現の自由へ配慮を欠いた−−田島委員
連続幼女誘拐殺人事件で最高裁で死刑判決を受けた宮崎勤被告を取り上げた社説「類似犯防ぐ環境整えよう」(今年1月18日朝刊)で、この種の犯罪とポルノ的、暴力的な映像やゲームを結びつけ、これらを「社会を挙げて一掃する方策を講じる」べきことを求めているが、表現の自由への配慮を欠き、あまりにも安易で短絡的だ。「有害環境からの青少年保護」を掲げて、表現への政府の介入を強める法案の上程を与党がうかがっている現実をどう認識しているのだろうか。

◇「建前論」では読む気しない−−玉木委員
イラク派兵、憲法改正、靖国参拝など重大な問題については、新聞は「社」の立場をきちんと示すべきだ。「壮大な破壊後の展望が大事」という今年の毎日新聞の年頭の社説も、それなりに意味をもつ。が、列車事故などの場合は、どのような「社」の立場がありうるのか。「安全対策の総点検」というような建前論の上に立つのでは読者も読みたいという気にならない。

◇小泉政権に照準、読む気にさせた−−吉永委員
元日の各紙社説は、関心を集めた。他紙が国が抱える問題を網羅して書いた中で、毎日新聞は小泉政権に照準を当てたのは正解だった。小泉改革路線の行方を考えさせられる事件が相次いでいる。中でもライブドア事件はやみくもに叫ばれた改革の裏面があらわにされた事件だろう。社説の書いた通り規制の秩序破壊の目的が明確にされないまま進んだ結果であると思う。「トラの威を借るキツネたちが首相の周りで価値観もなく威張り散らしていないか」と指摘していたが、わが意を得たりで、こういう社説に出合うと読むのが待ち遠しくなる。

◇安易な常套句、遺族に救いは−−柳田委員
あえて「安全管理で浮ついてないか」を取り上げる。「乗客が少なかったのがせめてもの救いで、込んでいれば、さらに大きな惨事となっただろう」という文章だが、犠牲者の遺族が読んだらどう思うだろうか。「救い」とは何だということになるだろう。安易な常套句(じょうとうく)の落とし穴は少なくない。

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◆あるべき姿とは
新聞の社説はどうあるべきだと考えますか。
◇「肉声」注目/批判的分析を/身近な視点で/専門性を高く

◇玉木委員
私は、毎日新聞が社説欄に論説委員が署名で書く「視点」のコーナーを新設したことに注目してきた。社説を面白くしたいという工夫の一つと受け止めている。他紙に見られない、毎日新聞だけの新しい試みである。
署名があるのだから、厳密にいえば、「社」の「説」ではなく、「私」の「説」である。が、建前論に立ったありきたりの社説より、筆者の肉声が聞こえる「私」の「説」の方が面白く読める。その積み重ねの中から、独自の「社」の「説」も生まれるのではないか。

◇田島委員
社説欄では、何よりも、権力監視などジャーナリズムの観点からの批判的分析を徹底してほしい。毎日新聞に限らないが、憲法問題など重要な問題で新聞はややもすると現状批判をおろそかにし、自ら提言や提案を示さなければという強迫観念に駆られてはいないか。提言等は時に必要かもしれないが、安易な「提言報道」は当事者の狭い議題設定に乗せられ、問題の本質を見誤る危険がある。論説や編集で顕著に意見が分かれている問題などでも、無署名の社説という形態を維持すべきなのか、再検討すべきではないか。そうしたケースでは多様な意見を署名入りの論説として提示していくやり方が望ましいと思う。

◇吉永委員
社説は新聞の知の顔だ。日々のニュースや現象に対し、新聞社としての論陣を張り、論の展開の巧みさに考えさせられたり、刺激を受けたりする。しかし、読者からすると、いささか敷居が高い面もある。テーマも大所高所ばかりでなく、もっと身近なものを取り上げる工夫があってもいい。文体も読みやすさが必要だ。読者の反響を起こさせたくなるような社説がもっとあっていい。

◇柳田委員
社説は、問題の核心がどこにあるのかなどについて事実を踏まえたうえで議論を組み立て、具体的な対策に結びつくような提言をするのが望ましい形だ。今日のような高度に専門化した時代においては、社説を執筆する論説委員らは担当する分野やテーマについて専門的な勉強をし、社会をリードする専門性の高い文章を書けるようにならなければならない。実体のないお説教の言葉でお茶を濁すような安易な作文はしないことを自らに課すべきだ。

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◆論説室から
◇大事なのは科学的検証、批判を謙虚に受け止めます

12月27日朝刊社説中の「風の息づかいを感じていれば…」という記述に多くの批判が寄せられました。突風を予測せよというのは無理だという批判です。今回の事故とJR尼崎事故(05年4月)を同一視するのは乱暴だという批判もありました。

死者5人を出した悲惨な事故です。突風が原因だったとしても、不可抗力で済ますわけにはいかないのではないか、というのが私たちの問題意識でした。

マニュアル通りの運転が行われていたのかもしれません。しかし、結果的に安全を確保できませんでした。

「風の息づかい…」の文言は、マニュアルを超えて、何か危険を察知し事故を回避する手段はなかっただろうか、それを考えてみようという思いを込めたものでした。筆者に運転士を責める意図はなく、運行関係者すべてへの問いかけでした。

しかし、表現が情緒的過ぎる、合理的でないとの批判を多数いただきました。マニュアルをきちんと守ることが安全対策の基本だという指摘もありました。

思いがあまって感覚的な批判になったのは否定できません。大事なのは科学的検証の必要性だったと、批判を謙虚に受け止めます。また、JR尼崎事故とは性格が異なる点で異論はありません。混同したつもりはありませんが、まぎれのない表現に努めたいと思います。

論説室が今、最も意識的に努めているのは「読んでもらえる社説」です。例えば、社説は無署名が当たり前ですが、問題によっては「視点」という署名入りの社説を試みています。署名入りの社説がありうるのか? 矛盾ではないか? 議論のあるところですが、何とか読者との距離を近づけよう、という努力のひとつです。

【論説副委員長・潮田道夫】

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