読売新聞 千葉版
ルポ医療の現場 疲弊する医師
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/chiba/kikaku/103/
患者支える充実感
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/chiba/kikaku/103/5.htm
「お風呂に入れてよかったですね」「よくはない。体が動かんようになって」
匝瑳市民病院(匝瑳市)の内科病棟で、林仁美医師(27)が脳こうそくの患者(91)と会話を交わす。林さんは同病院の勤務医ではなく、旭中央病院(旭市)の3年目の研修医だ。
旭市出身の林さんは山形県の大学に進んだが、地域医療で成果を上げている旭中央病院で学びたいと地元に戻った。同病院には、1、2年目は病院内、3年目は匝瑳市民病院など周辺の病院で研修を受ける「地域医療医コース」があり、林さんは現在、このコースにいる。
林さんが地域医療のよさを実感したのは、本人の希望で自宅に戻った肺がん末期の80歳代男性を担当した時だった。自ら往診に出向き、最期をみとった。家族からは「先生のおかげで家に帰すことができた」と感謝されたという。「都市部の大病院は病気だけを診がちだけれど、地域の病院では患者さんの生活まで含めて支えることができる」と林さんは語る。
臨床教育委員会の委員長も務める吉田象二・旭中央病院長は、「都会から医師を連れてきても定着してくれるとは限らない。地域医療を支える人材を、若いうちから育成することは重要」と指摘する。
地域医療の危機に直面して、住民の中にも、自らできることをしていこうという機運が生まれている。
「病院や行政に要望するだけでなく、住民も病院と診療所を使い分けたり、病気の予防に努めたりすべきだと思います」。成東病院(山武市)の医師不足問題を話し合うため、NPO(非営利組織)法人「地域医療を育てる会」が3月、東金市内で開いた集会で、同会の藤本晴枝理事長がこう主張すると、会場の多くの人がうなずいた。藤本さんは「様々な立場の人が知恵と力を出し合う関係こそ、地域には必要」と話す。
地方病院の医師確保策のモデルケースもなくはない。長野県佐久市の佐久総合病院は、田園地帯の病院ながら821床の大規模病院。206人の医師を擁し、周辺自治体の5診療所に医師を派遣している。診療所の医師は患者を同病院に紹介し、紹介した患者を診に行くこともある。研修などで留守にする時などは、代わりの医師が派遣される。
同病院での研修や関連診療所での勤務を希望する医師も少なくない。同病院から派遣されている同県南相木村の国保直営診療所長、色平哲郎医師は3月の東金市での講演で、「医師が来てくれる動機を地域としてどう作るかが大事だ」と指摘した。
井上由美子・城西国際大教授(福祉学)も、「地域医療に関心を持つ医師を育てることが重要だ。医師不足に特効薬はなく、地道な対策を取っていくしかない」と話している。
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読売新聞 千葉版
特報スコープ・岐路の地域医療
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/chiba/kikaku/080/
知恵寄せ合い将来像探る
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/chiba/kikaku/080/5.htm
自ら守る命と健康
「地域医療を育てる会」の第1回定例会で会の意義を説明する藤本さん(右から2人目)
「3か月入院すると退院を迫られる。その後はどうしたらいいのか」「どうやったら健康が維持できるのか知りたい」
今月8日、東金市内の福祉施設に民生委員や主婦ら約20人が集まり、医療への疑問や考えを口々に語った。
耳を傾けたのは県立東金病院の平井愛山院長や山武郡市広域行政組合の職員ら。質問に答える形で、平井院長が訪問看護や病院主催の市民公開講座について説明した。
「病院や行政が情報発信していても、なかなか住民に届かないんだな」。会合を呼びかけた「地域医療を育てる会」代表の藤本晴枝さん(40)は、情報提供の難しさを感じていた。
「育てる会」は今年4月に発足したばかり。山武郡周辺の住民や医療、福祉、行政関係者らが意見を交わし、住民の声を医療、行政側に届けるほか、住民に情報を発信することを目指している。
会の設立に動いた藤本さんは東京都出身。1993年、江戸川区から夫の実家のある東金市に転居した際、“医療過疎”地域の状況に驚いた。
夜中に高熱を出した子供を、車で千葉市や旭市の救急病院まで運んだこともあった。幼稚園で知り合った母親に、「かかりつけ医の自宅まで行ってたたき起こすしかないわよ」と教わった。女性団体に加わり、情報誌に医療記事などを書いていたころ、地域に新しい医療センターを作る構想が持ち上がった。
計画は、県立東金病院、国保成東病院、国保大網病院の3病院の機能を集約し、約5年後に24時間対応できる救急機能を備えた中央病院と外来患者や症状が安定した入院患者を受け入れる2か所の支援病院を作るという内容。
役所に請われ、医療センター構想策定委員会に加わった藤本さんは、高齢者のニーズに焦点があたりがちな議論の中、小児科や周産期医療の充実などを訴えた。
現在、まとまりつつある医療センター計画の住民への説明が進んでいる。今年1月末に東金市内で開かれたシンポジウムの終了後、藤本さんの目には、主催者の行政担当者は満足げな表情に、住民は物足りなさそうに映った。
「苦情を申し立てたり、行政に頼ったりするだけでなく、住民も行政や医療提供者と一緒に知恵を絞らないといけない」との思いが会の結成に向かわせた。
こうした動きは医療側も歓迎している。会に加わる東金病院の平井院長は、「中央病院ができても患者が押し掛けたらパンクする。住民が病気を予防し、かかりつけ医から中核病院までを上手に受診するようにしないと問題は解決しない」と指摘する。
センター計画は今後、病院の設置場所や運営方法、医療サービスの内容などを詰める方針だ。会では、住民の声を計画に織り込むことも目指すという。「健康や命を守るためには、それぞれの立場から力を出し合わないと」。地域医療の将来像を心に描きながら、藤本さんはそう思っている。(おわり)
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asahi.com 2007.8.28
患者の立場で若手医師育成 東金の病院で
東金市台方の県立東金病院が市内のNPO法人「地域医療を育てる会」と一緒に、若手医師のコミュニケーション能力を高めるための「医師育成サポーター制度」を始めてまもなく半年を迎える。医師不足が深刻な山武地域。平井愛山院長は「住民とともに医師を育てることで、医師も地域医療への意識が高まる」と語る。
「サポーター」となる市民に、若手医師が生活習慣病についての講義をし、質問に答える。その様子を市民が評価する。患者とのやりとりに慣れていない若い医師にとって、市民にわかりやすく説明することが、診療のトレーニングとなる。
4回目となった20日、同病院の会議室には17人のサポーターと平井院長が集まった。今年度の講師を務めるのは阿部浩子医師(33)。8年目の内科医だ。
この日のテーマは「貧血」。貧血が起こる仕組みや予防法を、15分間で説明する。誰にでも分かるように専門用語はできるだけ避け、「経口薬」を「飲み薬」と言い換えるといった工夫をした。
テーマに対しての質疑応答(15分)では「鉄剤を飲んでいるが、ずっと飲んでいても大丈夫なのか」「検査は年1回程度でいいか」。矢継ぎ早にサポーターから質問が飛ぶ。
その後、「病院から『診療所を紹介します』と言われたら」を議題にして30分間の自由討論があった。状態が安定している患者に対して、主治医が近くの診療所を紹介するケースを想定して意見が交わされた。阿部さんには司会役として、白熱する議論の調整力も問われた。
すべてが終了すると、サポーターが阿部さんについて、声の大きさは十分だったか、質問に耳を傾けていたかといった約20項目を、5段階で評価した。
平井院長によると、診察や治療の場面で、患者とのコミュニケーションは、医師として最も必要な技能だが、大学ではほとんど教わることがないという。同時に複数に教えることによって、どのように話せば全員に理解してもらえるかが分かる。
「地域医療を育てる会」の藤本晴枝理事長は「患者はベテランの医師に診てもらいたいと思う。それでは、若い医師のやる気がなくなる。患者側は何ができるのか」と考えた。医療に詳しくない市民が、分からないことをぶつけることで医師を育てるという逆転の発想から、この取り組みは生まれた。
もともと人前で話すことが苦手だったという阿部さん。繰り返し市民に話すことで「理解度は人によってさまざま。患者が何を考えているのかが分かるようになった」。平井院長も「最初はマイクにしがみついていたのに、身ぶり手ぶりを交えて説明するようになった。自信の表れだろう」と評価する。
サポーターの登録は現在25人。40〜60代の人が多く、口コミで集まってきた。初めて参加した大網白里町の中尾栄子さん(68)は「医者と向き合って、市民が言えることは良いこと。病気をきちんと説明して、不安を取り除く先生になってほしい」と話した。
東金病院は、04年に始まった新医師臨床研修制度の導入に伴い、勤務医が大学病院に引き揚げられ、一時は内科医が2人となった。しかし、研修制度を充実させるなどして、今年の4月には6人に戻った。
サポーター制度は阿部さんが取得を目指す専門医のカリキュラムの一環として行われている。今年度は全12回行われるが、参加する市民も徐々に増えている。平井院長は「医師は孤立無援になったら辞めてしまう。とどまらせるために、住民が何かをしてくれているという力は大きい」と手応えを感じている。