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大淀事件 28 / 毎日新聞 開かれた新聞座談会

Posted by guideboard on 2007/07/16/Mon

大淀事件の第一報の報道が検討に上っている。柳田邦男氏は、医療事故の報道が引き起こす影響が理解できていらっしゃる。他の委員諸氏も報道の影響について考えを巡らせていらっしゃるようだ。毎日新聞社側は、読者からのメールなどでの反響を見ても、理解の端緒にもつくことができないでいるようだ。

モラルに欠けたヤブ医者が騒いでいる、くらいにしか思わないのだろうか。

毎日新聞東京朝刊 2007.4.21
開かれた新聞:座談会 医療現場に構造欠陥 さらに分析し提言を(その1)

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070421ddm010040163000c.html

司会 昨年8月、奈良県の大淀病院で分娩中の妊婦が意識不明になり、緊急搬送先の病院で亡くなりました。10月以降、搬送先の確保に手間取った背景などを含めて報じています。昨年2月には帝王切開手術中に妊婦を死なせたとして福島県立大野病院の産婦人科医が逮捕される事件もありました。こうした問題の構造的な要因を調べ、報告する狙いで、今年1月から東京と大阪の記者たちが企画「医療クライシス」を連載中です。一連の報道には多くの反響があり、患者側だけでなく、医療関係者からも賛否の意見が寄せられています。

玉木明委員 奈良の記事は大変意味のあるスクープだ ….. このまま医療を放っておいたら大変だという印象を持ったので、「医療クライシス」を含めて良い記事だと感じた。こういう医療の現状を広く世に知らしめていくのが新聞の重大な任務だと思う。

吉永春子委員 奈良のスクープは見事だった ….. ただ「放置」や「たらい回し」といった表現は、誤解や反論を受けやすい。本当に「放置」していたのか繰り返し確かめたほうがいいし、「たらい回し」の見出しは慎重さが欠けていた。

砂間裕之・大阪本社社会部兼科学環境部デスク 国立循環器病センターに運び込まれるまでの6時間について、“放置”という表現を使いました。その間、何も処置されなかったという遺族の強い思いがあり、事実関係としても19病院に搬送を断られ、遺族から見れば、結果的に放置されたというのは間違いでないと思います。一方、「たらい回し」は事実と異なり、東京本社の一部紙面でそういう見出しになったのは不適切だったと反省しています。

柳田邦男委員 過去の医療報道でいくつか間違いはあったと思う。例えば「院内感染」と「患者の死亡」が結びつくと、記者は「医療事故だ」と決めつけがちだが、医学的な意味を探るかどうかが、単なるセンセーショナリズムか問題提起の記事になるかの分かれ目だ。奈良の問題では、2カ月間かなり慎重に取材し、科学環境部の記者も一体となって調査報道として第一報を出した手順は正解だった。今までの報道の姿勢で言えば妥当だったと思うが、もう一つ違う座標軸や視点を持ち込んではどうか。時代の変わり目には、記事の重点や意味付けも変わらないといけない。

高村薫氏 医療のことは全くの素人で、一読者として大淀病院のニュースに接すると何が原因で、誰が悪いのか、まとまりのあるストーリーが示されているとは受け取れなかった。素人には医師側の主張が妥当なのか判断できない。逆に被害者側の主張が正しいのか間違っているのかも分からない。利害関係のない第三者として医療事故の記事を読むと、いつもどう判断していいのか悩む。結局、誰が悪いのか、誰が責任を取るのかという形では見えてこない。

司会 柳田委員の言うこれまでと違う視点の必要性とは、具体的にはどういうことでしょうか。

柳田委員 大野病院の産科医逮捕に時代の変わり目が鮮明に表れている。一般に医療への期待は絶大で、万が一、出産時に新生児を死なせたら、親は殺されたという意識さえ持つ。お産は時にはリスクを伴うと認識されていた時代とは違う。そこに警察の強硬姿勢が加わり、その影響で分娩を扱う産婦人科医が激減した。警察側には遺族の心情を背景に刑事罰で医療界を糾(ただ)そうとする姿勢がある。それなりの理由があるにせよ、医師を凶悪犯的に扱うことで、産科医が激減し、医療崩壊を加速させるという由々しい事態が生じている。第三者機関が医療ミスの有無にかかわらず、被害者や遺族に補償の手立てを講じながら、原因を科学的に究明する制度を作らない限り、この二律背反は解決できない。報道はそこまで考えるべき時代だと思う。その点で「医療クライシス」シリーズはいい企画なので、提言の議論をさらに深めてほしいし、医療事故発生時の記事でも、その都度その視点を入れてほしい。

…..

玉木委員 毎日新聞は個人の医師を批判するだけで終わらせないという観点で一連の報道をしてきたと説明があったが、報道の在り方として大淀病院問題を伝えた初報の社会面(大阪本社)の記事が気になった。「遺族『助かったはず』」という見出しで、亡くなった母親の顔写真と、無事だった赤ちゃんを抱く父親の写真を掲載した。これは医師を告発していれば済んだ時代の形式で、既視感がある。新聞を開いた医師の中には、短絡的に医師たたき、医療たたきの記事がまた出たと受け止める人がいたと思う。新しい時代には新しい時代の器を考えてほしい。整理の仕方、見出しの付け方の問題もあるが、そろそろこういうパターンから抜け出し、新しい作り方ができないか。

砂間デスク ご指摘は真剣に受け止めます。ただ、決して古いステレオタイプの記事だとは思いません。今日の議論のように医師、医療界をどうするかを考えながら、医療事故の一方の当事者である患者、遺族の権利を守ることも新聞の使命です。医療側の意見とともに患者の意見も掲載しないと、全体像は分からないと考えます。

玉木委員 それは分かるが、記事の見せ方として新しいものを古い器に盛って出されたら、昔の料理と同じに見える。そういう感じがするということを強調したい。

柳田委員 医療事故にとどまらず、JR西日本の福知山線脱線事故(05年)でも、日本航空ジャンボ機の墜落事故(85年)でも、被害者の声は大事だから、記事の本文や見出しで被害者の言葉をカギ括弧に入れて出すのはニュースとしてあり得る。ただ玉木さんの言うように見せ方を衣替えできないかとは思う。

司会 記事が情緒的すぎるという印象ですか。

吉永委員 他紙も含め全般的に気持ち悪くなるほど情緒的な記事が多いのは事実だ。現実はもっとリアルだと思う。出産の現場は想像以上に緊迫している。ベテラン医師に聞いたが、出産の時はいつ何が起きるか分からず、緊迫した状況の中で瞬時の判断が求められる厳しいものだと言われた。こうした産科医の重責も書くべきだ。

柳田委員 被害者の声を取り上げるなという気はさらさらない。しっかり伝え、そこから出発するのが事故論の原点だが、メディアの中では、被害者の視点を事故の真相究明の方法や制度にどう生かすか、その記事の作り方が検討されてこなかった。

玉木委員 この遺族は記者の真意を理解し、協力してくれたのだから、相応の見識のある人だと思う。その言い分の掲載に反対だと言うつもりはない。しかし、社会面の記事だけを見ると、情緒的というか、引っかかりを感じる。

柳田委員 遺族報道の在り方を含めて一つだけ補足しておきたい。何か事故が起きると現場の従事者の刑事責任の追及が優先されるのは、日本の一罰百戒主義文化の欠陥だが、それでは絶対に本質に迫れない。背景にある構造を分析すると、真因は制度やシステムの欠陥による組織事故であることが分かる。医療事故も、医師の一つの行為をあまりに強調しすぎると、本質が見えなくなる。今回の報道はかなり掘り下げて、企画も継続しているから多面的だと言えるが、基本的に犯人捜査的な物の見方から脱却しないと、本質に迫る記事にならない。私が医療事故にかかわる第三者調査機関の設置を主張するのも、捜査ではなく、構造分析を通じて欠陥を修復するためだ。突き詰めれば、刑事訴訟法がすべてに優先する社会システムの変更につながる。そのことも頭に入れておくと、新しい視点の記事を書けるのではないか。

…..

◇委員会メンバー
吉永春子委員(テレビプロデューサー)
柳田邦男委員(作家)
玉木明委員(フリージャーナリスト)

◇オブザーバー
高村薫氏(作家)

◇毎日新聞側の主な出席者
朝比奈豊主筆▽藤原健大阪本社編集局長▽河野俊史東京本社編集局次長▽山内雅史大阪本社社会部デスク▽砂間裕之同社会部兼科学環境部デスク▽薄木秀夫「開かれた新聞」委員会事務局長

毎日新聞社の手前か、大変よいスクープと評価されているが、第一報の時点でマスコミ各社はご遺族から診療記録を入手し、大淀事件 08 ( 20061021 / 15:22 )、これは第一報の 4 日後の情報、これと同程度の情報を得ていたはずなのだ。大淀事件の報道について、まず、たらい回しの用語一つの問題ではなく、事実をどれだけ記録から見つけ出せるか、その能力が劣っていたのではないか。

その他の医療関係の報道でもそうだし、委員諸氏が指摘していらっしゃるが、事実を見つけ出し検証し提言するというレベルにはほど遠い、犯人をでっち上げ叩くだけ叩く程度の報道が多く目につくのは、各社ともそうだが、コマーシャルベースの報道機関の限界なのだろうか。

第一報の記者を批判非難する声が聞かれることについて、若い記者が非難されている、気にしなくてよいとコメントされているが、署名記事で自信を持ってスクープを発したのだから、執筆した記者には、若かろうがベテランであろうが、その責任があるだろう。

参考リンク

http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/43_3465_f626.html

http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/44_ac1a.html

砂間氏は奈良支局の出だったようだ。

以下、参考資料

大淀事件 28 資料 / 毎日新聞 開かれた新聞座談会 20070421


追記

この記事の 2 ヶ月あまり後、20070626、http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070626 にてこのスクープにまつわるもう一面の情報が伝えられた。新聞記事を信じるか、一ブログ執筆者を信じるかは様々だが、これまでの経緯を考えると、このブログ記事には符合することが多い。

  • 亡くなられた妊婦さんが陣痛に苦しむ様子、意識が戻らないままの術後の様子、それらを手ぶれもなくビデオで撮影していた人がいたこと。
  • 情報漏出と騒いだ割には元々情報は遺族側から出ていたこと。
  • 執筆記者がこの報道の少し後に産休に入っていて、ある団体からの講演の依頼を断っていたこと。
  • ご遺族の親族に元大淀病院関係者 ( 元看護婦長 ) がいらっしゃって、独自に消防救急や諸病院に搬送を打診していたりマスコミに情報を提供していたこと。

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