大淀事件 20 資料 / MBS 20061102
Posted by guideboard on 2007/07/15/Sun
» 大淀事件 20 ( 20061105 / 23:53 )
「産婦人科医療のジレンマ」2006/11/02 放送
http://www.mbs.jp/voice/special/200611/02_5477.shtml
妊婦死亡の背景に、命の現場が抱えるあるジレンマが見えてきました。
奈良の妊婦が19もの病院から受け入れを拒否され死亡したことが表面化してから2週間余りが経ちますが、VOICEのその後の取材で、今の産科医療が抱えるある問題が浮かび上がりました。
最先端の医療施設のベッドが、いつも『満床』なんです。
NICU、新生児のための集中治療管理室です。
9人の赤ちゃんを、5人の看護師が付きっきりで世話しています。
8月8日未明、子癇発作の妊婦の受け入れを打診されたこの病院は、「NICUのベッドが満床で、生まれてくる赤ちゃんに対応できない」と断りました。
この日、どこの病院もベッドはふさがっていました。
高崎奏太くんは、もうすぐ生後3ヵ月になります。
生まれたときは肺炎をおこした状態でしたが、元気に成長しています。
しかし、母親の実香さんは、分娩(ぶんべん)の際の脳出血で亡くなりました。
奈良と大阪の19の病院が、実香さんを受け入れることができませんでした。
「ベッドが満床というだけで、治療を早くしてあげられなかった。今でも悔しいです」
実香さんは、予定日を1週間すぎた8月7日午前9時すぎ、分娩誘発のため、大淀病院に入院しました。
夕方には陣痛が始まりますが、午前0時すぎ、頭痛を訴え意識を失います。
「不安で不安でしょうがなかったんで、とにかく『大丈夫ですか?』って主治医に聞いたら、『陣痛と頭痛からの失神でしょう』と言われた」
意識が戻らないまま1時間がすぎ、午前1時37分、実香さんは突然けいれんをおこします。
主治医は、妊娠高血圧症候群による「子癇(しかん)」と判断し、地域の拠点病院である奈良県立医大に電話、引き受けを依頼しますが、断られてしまいます。
「すでに病床が満床で、患者さんがあふれている状態なんです。部屋があればもちろん受けますけども、ない状況ですとなかなか責任もてませんので、病院を探したんです」
県立医大の産科医は県立奈良病院に連絡しますが、ここも満床。
奈良県内の病院をあきらめ、大阪の母子センターに受け入れを依頼しました。
が…
「当センターもベッドがいっぱいでしたので、大阪で病院を探すことになりました」
大阪府には、43病院の産婦人科が加盟する「OGCS(=産婦人科診療相互援助システム)」があります。
母子センターの医師は、ベッドに空きがあり、受け入れができそうな病院をコンピューターで探しました。
しかし…
堺市のベルランド総合病院。
「分娩を待つ妊婦が4人いて、手が足りません」
淀川キリスト教病院。
「満床です」
近畿大学付属病院。
「満床です」
済生会吹田病院。
「麻酔医が不在で、緊急手術に対応できません」
高槻病院。
「帝王切開の手術が2件重なり、もう対応できません」
大阪の中核病院、大阪市立総合医療センターは、NICUのベッドが満床でした。
「子癇など、母体のほうに異常がおこると、胎児・新生児のほうに異常がおこることも考えまして、お断りさせていただいた次第です」
時間がどんどん過ぎていきます。
家族は自ら大阪の消防局に電話して、救急病院の連絡先を調べ、主治医に伝えました。
また夫の父親は、奈良県立医大の医師と直接、話したといいます。
「『ベッドがないんです』と言うので、『ベッドはいらん!廊下の片隅でもいい。とりあえず処置してください』とお願いしたんですけど、拒否されました」
実香さんが60キロ離れた国立循環器病センターに運ばれたのは、午前6時。
19の病院に断られ、意識を失ってから『6時間』がすぎていました。
「これほど重症の方をお願いして、これほど時間がかかるのは初めてです。普通は、20〜30分以内に見つかると思うんですけどね」
なぜ、こんなに断られ続けたのでしょうか。
【主治医の判断ミス】
「もっと早く脳内出血とわかってたら、意識なくなった時点でCTを撮っていただいたら、命だけはとられなかったかなぁと思います」
主治医は脳出血を疑わず、当初、失神と判断。
その後、妊娠高血圧症候群による子癇と考えました。
脳出血や生命の危険の可能性が伝わっていれば、搬送先はもっと早く見つかったかもしれません。
「脳出血であれば、むしろ大学で脳外科のある病院や救命救急センターを中心に探しますので、もう少し早く見つかった可能性はあります」
【満床が常態化】
NICUが満床で実香さんを受け入れられなかった病院が、3つありました。
医療技術の進歩が皮肉にも、NICUを満床にします。
「不妊の治療で双子、三つ子という方がおられます。妊娠23週、24週で生まれても助かる子どもさんがおられますので、そういう方を積極的に助ける。それで、満床になってる」
奈良県は、出産のための病院整備やシステムづくりが遅れています。
緊急治療が必要な母体を県外に搬送する割合は、4割近くにのぼっています。
「今回の悲劇、なぜおこってしまったのか。お答えいただきたい」
「適切に救急搬送がされなかった。こういうことが今回の悲劇を呼び起こした」
今回のような一刻を争う緊急事態では、「県内の拠点病院が無理をしてでも受け入れるべきではないか」という意見もあります。
「産婦人科の病棟が満床でも、病院全体の中で少しどこかに空きがあれば、やはり引き受けるというか、それはできたんじゃないかと思いますけど」
「(Q.ほかの科のベッドや、救命救急センターを使うという選択肢は?)もちろん、使うことは十分できると思います。ただ、それは今、あなたたちが結果を知っているから言うことであって、私たちは最善の努力をしています」
実香さんを失い、一時は絶望のあまり、死ぬことも考えた夫の晋輔さん。
いまは、産婦人科医療の充実を求める署名活動を始めたいと考えています。
「もう今後こんなことがおこってほしくないって、実香は思ってると思うんです。それをぼくに伝えてくれている気がして」
主治医の判断ミス、医師不足、常に一杯で余裕のない施設など、複合的な要因が重なって、実香さんは亡くなりました。
構造的な問題にメスを入れない限り、悲劇を防ぐことはできません。