Guideboard

大淀事件 08 ( 20061021 / 15:22 )

Posted by guideboard on 2007/07/02/Mon

本記事は、2006 年 10 月 21 日、午后 3 時 22 分、http://sword.txt-nifty.com/guideboard/ にオリジナルの記事 ( 奈良産科転送事件続報 5 ) がアップされたものである。原典は削除された。


キーワード
奈良県、大淀病院、産科、産婦人科、子癇、転送、搬送、放置、脳内出血、受け入れ拒否、死亡、医療崩壊、三大事件、医療事故、医療訴訟、刑事訴追、周産期救急医療、一人医長

これまでの新聞報道のうち、最も事実経過に近そうな内容のもの ( 大淀事件 07 ( 20061020 / 21:04 ) | 旧 奈良産科転送事件続報 ) と、関係者と見られるところからの情報 ( 大淀事件 01 ( 20061019 / 01:11 ) | 旧 奈良産科転送事件、大淀事件 06 ( 20061020 / 09:58 ) | 旧 奈良産科転送事件続報 3 )、および新たに伝わって来た情報とをまとめて、現時点で私が理解できるところを整理する。

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時系列

2006.8.7 午前
患者さんは予定日超過 ( 妊娠 41 週 ) で入院。入院当日からPGE2の内服で分娩誘発。当日の午後に服薬を終了。自然に経過観察していたところ、準夜帯から自然陣発。
CTG は入院の全経過中ほとんど装着しており、患者には担当の助産師がほとんど付き添っていた。
当日の外科系当直は整形外科医、内科系当直は内科医、産婦人科部長 ( 一人医長で 60 歳以上 ) が産科当直。脳神経外科医と放射線技師はオンコール。麻酔科医はいない。

2006.8.8 午前 0 時頃
こめかみが痛いと訴えて嘔吐。

2006.8.8 午前 0 時 15 分頃
意識消失。
痛みに対する反応(顔をしかめる)はあった。
産婦人科部長は念のため内科当直医に対診を依頼、内科医が対光反射や一部の神経学的所見を診たところ、意識レベルが低い ( 痛み刺激には反応あり ) ものの他の異常所見が無く、また陣痛発作時には産婦が声を上げて痛がるなどした。内科医は「陣痛による失神でしょう、経過を見ましょう」ということになった。
その時点では血圧は正常で、子宮口も 4cm 程度開大していたため分娩経過を見ることになり、産婦人科部長は当直室に戻った。
内科当直医と産婦人科部長の間で CT 撮影について議論した事実はなく、当該内科医もそんなことは言っていないし、カルテにもこれに関する記載はない。

2006.8.8 午前 1 時 37 分頃
強直性の痙攣が出現、収縮期血圧が 200mmHg になった。
産婦人科部長が当直室 ( または部長室 ) から駆けつけ、子癇発作と判断、マグネゾールを投与。
マグネゾール投与で痙攣はおさまり、以後投与中は痙攣の再発はなかった。

2006.8.8 午前 1 時 50 分頃
母体搬送の決断を下し、奈良医大へ電話連絡を始めた。
奈良医大に搬送受け入れを要請したとき、奈良医大の当直医は緊急帝王切開で手術室にいた。
奈良医大産婦人科スタッフ 4 人のうち、2 人が自院の業務を続け、2 人が搬送先の手配にあたった。

2006.8.8 午前 2 時頃
瞳孔散大を認めるも痛覚反応あり。血圧は 148/70 と安定してきた。
この時点で頭部 CT も考慮したが、放射線技師は当直していないし、CT 室が分娩室よりかなり離れたところにあること、患者の移動の刺激による子癇の重積発作を恐れ、それよりも早く高次医療機関をさがして搬送するほうがよいと判断、電話をかけ続けたが、なかなか搬送先がみつからない。
県立奈良病院は、妊娠 24 週前後の早産が進行中で、NICU のベッドに空きがなかった。

2006.8.8 午前 2 時 30 分頃
産婦人科部長が家族に状況を説明
産婦人科当直医と奈良医大の産婦人科医で搬送先をあたり続けた。
家族が「ベビーはあきらめるので、なんとか母体をたすけてほしい。ICU だけがある病院でもいい」と言ったので、NICU を持たない病院にまで搬送先の候補をひろげた。
家族に大淀病院の元関係者がいて、この人物が消防署員の知り合いを通じて病院のリストを手に入れ、多くの病院に連絡をした。
奈良医大産婦人科は自院の救命救急部門にも交渉したが、子癇には対処できないと拒否された。

2006.8.8 午前 4 時 30 分頃
呼吸困難となり、内科当直医が挿管したが、その後自発呼吸ももどり、サチュレーションは 98% と回復した。
その後すぐに国立循環器病センターが受け入れ OK と連絡してきた。

2006.8.8 午前 4 時 50 分頃
救急車で搬送。

2006.8.8 午前 6 時頃
国立循環器病センター到着。

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経過におけるポイントと考えられる事項。
本件で、医療側を責め立てたい向きの人たちも、報道内容の変化、関係者からと見られる情報と報道内容を対比して、よく考えて頂きたい。

1. 意識消失した後も、母児はモニターされ、助産師がついていた。放置ではない。一人医長である産婦人科部長が経過観察中に休息した事は、不当であるとはいえない。
2. 当日夜、大淀病院にいた産婦人科医は、一人医長である産婦人科部長だけ。報道には誤りがある。報道で患者さんの側を離れたとされているのは、産婦人科部長を指していると考えられる。
3. 内科当直医が CT を勧めたのに産婦人科部長が拒否したという事実はない。
4. 子癇に対する対処で状態がまずは安定した。
5. CT 撮像のリスクを考慮し搬送を優先した。午前 0 時 15 分に、直ちに CT 撮影を決定していても、放射線技師が呼び出されて、機械をスタンバイし、搬送し、撮影し、フィルムを呼び出された脳神経外科医が判断するところまで、1 時間では済まない。午前 1 時 50 分ごろに搬送を決断した事は、遅すぎるとはいえない。
6. 奈良県立医大、県立奈良病院は産科が受け入れられる状態ではなかった。
7. 天理よろず相談所病院、近畿大学奈良病院はもともと受け入れられる体制になかったと見られる。
8. ICU を備えた医療機関を探した。理想的には、ICU、NICU があり、麻酔科医、複数の脳神経外科医、複数の産婦人科医、小児科医が常駐、待機していて、すぐに手術室が稼働できる医療機関。それよりも遥かに条件を下げたのに搬送先が見つからなかった。

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医学的検証を要すると考えられるポイント

1. 子癇と診断した事の妥当性は、医学的検証を待たなければならない。
2. CT 撮像より搬送を優先した事の妥当性も、医学的検証を必要とする。CT を撮像しなかった事が、結果を左右したとは考えられない。
3. 脳内出血の原因に、子癇の有無が関与したかどうかについても、検証が必要である。
4. 脳内出血は、発症直後なら手術で助けられる状態だったか。原因や出血部位はどこだったかなどの医学的なファクター以外に、大淀病院、奈良県といった地理、医療システムのファクターと、両方の検討が必要である。

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素人考え用のポイント

私の印象では、専門外ではあるが、子癇と診断した事も、CT より搬送を優先した事も、現場の産婦人科医が判断したこととして、妥当だと思う。後からどうこうは、誰でも言える。

最初からそうと分かっていれば、CT を撮っておけば、国立循環器病センターに早いうちに電話しておけば、などというのは結果論でしかない。

発症直後なら手術で予後が期待できる脳内出血であったとして、もしもその脳内出血が直後に診断できたとして、直後に上記の理想の条件が揃うところへ送ることができたか。脳だけ手術しても、母児ともに助からない。

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末原則幸大阪府立母子保健総合医療センター診療局長兼産科部長のお言葉

「脳内出血で母親の命が危ないと分かっていれば、産科より救命救急センター、大学病院を中心に搬送依頼した。搬送先が決まるまで待つ時間があるなら、CTを撮る時間もあったのではないか」

「母体の救急搬送を他府県に依存すれば、今回のようなケースは今後も出てくるだろう。奈良は独自で対応できるような拠点施設を早く整備すべきだ」

—–

救命救急センターであっても、妊婦の手術をするには産科医が必要だと思うが。奈良県立医大救命救急センターには、搬送の問い合わせをしているのだ。前にも触れたが、末原則幸大阪府立母子保健総合医療センター産科部長は、本当にこんなものの言い方をしたのだろうか。

奈良県ではシステムは立ち上げていた。当日、2 軒の医療機関で断られたのだ。いついかなる時でもどんな時でもという理想の具現化は可能だろうか。努力は必要だ。だが、人間が、しかも限られた予算とマンパワーで構築するのだ。完全にはいかない。必ずこぼれ落ちる事例が出る。それを許容できるかどうか、これは倫理、文化という次元の問題にもつながる。

———-

下記の報道には悪意が感じられる。NICU が空いていても、母体はどうしろというのだろうか。産科医が暇にしていたわけでもないし、待機していた他の妊婦を押しのけてよいわけでもないのだが。

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Sankei Web 2006.10.21
1床空いていた…「別の妊婦に必要」と転院拒否 奈良
奈良県大淀町立大淀病院で分娩中に意識不明になった高崎実香さん(32)が、19病院に受け入れを断られた末に大阪府の病院で死亡した問題で、転院を打診された県立奈良病院(奈良市)が、新生児集中治療管理室(NICU)が1床空いていたのに拒否していたことが21日分かった。

YOMIURI ONLINE 大阪 2006.10.21
県立奈良病院、ベッドあるのに「満床」
「別の出産に必要」と…妊婦転院拒否

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断った病院の判明分

奈良県立医大 : 帝切手術中
県立奈良病院 : 妊娠 24 週早産進行中
大阪府立母子保健総合医療センター : 満床
大阪市立総合医療センター : NICU が病床オーバー
ベルランド総合病院 : 人手不足、ハイリスク分娩待機中、他分娩 2 件待機中

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以下、参考資料

大淀事件 08 資料 | 旧 奈良産科転送事件続報 5 資料

参考リンクは前記事にまとめてある。

大淀事件 07 ( 20061020 / 21:04 ) | 旧 奈良産科転送事件続報 4


この記事へのトラックバック一覧です: 奈良産科転送事件続報 5:

» 奈良妊婦転送拒否事件>毎日新聞記事のむごさ トラックバック ある町医者の診療日記

http://blog.hashimoto-clinic.jp/200610/article_4.html

発端 なぜかリンク先がなくなっています。 (私の検索が下手なのかもしれませんが) それで、m3.comにあるものをコピーしておきます。著作権上、問題かなとは思いますが、毎日新聞がいかに歪曲した報道をしたかの証拠として全文を残しておく必要があると考えますので、あえて、、、 -----(以下引用)------ 意識不明、6時間“放置” 妊婦転送で奈良18病院、受け入れ拒否 脳内出血死亡 06/10/17 記事:毎日新聞社 提供:毎日新聞社 ID:334061… [続きを読む]

受信: 2006/10/21 20:43:24

» 受け入れは可能であったか? トラックバック いなか小児科医

http://swedenhouse-oita.cocolog-nifty.com/pediatrics/2006/10/post_25ac.html

2006年10月21日 晴れ 更に奈良事件へ、ぶら下がります。 このような記事が [続きを読む]

受信: 2006/10/21 23:53:25

» [医療報道]奈良の件追加6 トラックバック へなちょこ医者の日記(当直日誌兼絶望日誌)
[医療報道]奈良の件追加6
id:Yosyan:20061021さんがここ数日の私がはっつけておいたコピペをわかりやすく読み解いてくれています。この解釈に同意です。 (時系列でまとめてる方もいてこちらhttp://sword.txt-nifty.com/guideboard/2006/10/_5_1ebe.html) コピペの元はm3あるいは2chからのもので、… [続きを読む]

受信: 2006/10/23 2:15:57

» 糾弾は何も生まない/マスコミは新しい医療報道のパラダイムシフトが必要 トラックバック やさしい医療をめざして-新しい神経内科

http://owada-dr.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_df96.html

妊婦さんの転送の問題の報道が続いています。 報道は難しい。 こちらに、詳細な報告 [続きを読む]

受信: 2006/10/25 16:08:47

コメント

こんばんは
時系列に沿った解説。非常にわかりやすく参考になりました。
拙ブログよりトラックバックさせていただきました。

投稿 いなか小児科医 | 2006/10/22 0:14:22

非常にわかりやすいですね。
そのソースはm3にあったやつですかね。

私もブログに転載の許可をいただいているところなんですが。
それよりも、先生の記事の方がまとまっていてわかりやすいので、そちらを使わせていただいても構わないでしょうか。
よろしくお願いします。

投稿 Dr. I | 2006/10/22 0:38:06

いなか小児科医先生、Dr. I 先生
こんにちは、または、こんばんは

この件で、医師、医療関係者以外の方々のブログや掲示板の書き込みを多数拝見させて頂きましたが、医療の堤防に穴をあけ、逃散の背中を後押しするようなコメントが大多数です。

マスコミの報道もひどいものです。

情報は、量、質、スピードが大切だと考え、情報を提供くださった方のご了承を頂かずに、参照させて頂きました。その後、m3 にて転載を容認して頂けるようなお言葉がありました。

少しでも多くのブログ、掲示板などで本件の真相に迫る情報が取り上げられ、心ある人たちの目に留まることを期待しています。

頭から医療を否定しにかかってくる大多数の方たちには、こういう情報は、目に触れたとしても、理解できずに脳内を素通りしてしまうでしょう。

それでもやはり情報の、量、質、スピードが大切。とにかくマスコミ報道に負けないように、流し続けるしかないと思っています。

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外へ向けては、そのままの引用はなるべく控えて、本文に対する参照、引用、というレベルに止めるように気を付けています。

私的には、外から見られる事が少ない書庫に保存して、いつでも参照できるようにしています。

投稿 道標主人 | 2006/10/22 1:22:27

あと、こちらからのトラックバックシステムがうまく行かないようで、何件か送らせて頂こうとしたのですが、送ることができない様です。

投稿 道標主人 | 2006/10/22 1:25:03

申し遅れましたが、私の理解するところでよろしければ、ここの情報は適宜お使いください。

投稿 道標主人 | 2006/10/22 1:28:22

はじめまして、宜しくお願いいたします。
一素人ですが、以前から、一連の改革のトリは「医療改革」だろうと考え、以前から報道される各種医療関連ニュースに関心を寄せているものです。
将来の日本の医療の形は、サッチャー後の英国ではなく、米国型@日本バージョンになる可能性が高いのかなぁ~と危惧しております。

事後承諾となってしまい、大変心苦しいのですが、時系列並びに、経過におけるポイントと医学的検証をようすると考えられるポイントをmixiブログに掲載させて頂きました。掲載したmixiブログは、Rihorin 10月21日「いつか見た光景」でご覧頂けます。
もし、掲載がまずいようでしたら、こちらの掲示板にその旨を書いて頂ければ、即刻、掲載した部分は削除いたします。

投稿 一素人 | 2006/10/24 8:12:14

一素人様
こんにちは、または、こんばんは

ここの情報は適宜お使いください。この記事の続報には、産經新聞の報道を紹介させて頂いていますが、ほぼ一致するようです。
大淀事件 10 ( 20061023 / 13:51 ) | 旧 奈良産科転送事件続報 6

私の方が 1 日早かったようですね。

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> 将来の日本の医療の形は、サッチャー後の英国ではなく、
> 米国型@日本バージョンになる可能性が高いのかなぁ~と
> 危惧しております。

そうですね。まず英国型にして焦土とした後、米国型システムにしようという流れのようです。

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米国型医療保険システム、それを政財官のみならず、多くの方が支持している様子です。米国の医療は素晴らしいと伝わっています。

米国での勝ち組は金融保険財閥です。

投稿 道標主人 | 2006/10/24 10:25:14

管理人様
掲載の件、ご了承頂き、ありがとうございます。

米国の勝ち組は、本当にその通りだと思います。
その勝ち組の要請が、一連の改革であったのですが…

米国型医療保険システムについて、私見ですが、多くの人々は、よく知らないか、日本と同じと思っている人が多いような印象があります。
(マスコミも、米国の医療費についてはほとんど報道しませんし…)
つまり、現在の日本の健康保険と余り変わらない負担額で、米国同様の最新医療と手厚いサービスが受けられる、と考えている人が多いように思います。
米国の保険や医療費について話をしても、(米国に住んだ経験者以外には)「まさかぁ~人命は何より尊いのだから、そんなに高額なわけ無いじゃない。」と信じて貰えないこともしばしばです。

投稿 一素人 | 2006/10/24 19:11:59

一素人様
こんにちは、または、こんばんは

全くおっしゃる通りかと存じます。
小泉改革で苛められても、なお小泉改革に恋い焦がれる。そんな感じです。

投稿 道標主人 | 2006/10/24 21:54:46

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