大淀事件 03 ( 20061019 / 15:34 )
Posted by guideboard on 2007/07/01/Sun
本記事は、2006 年 10 月 19 日、午后 3 時 34 分、http://sword.txt-nifty.com/guideboard/ にオリジナルの記事 ( 奈良産科転送事件 3 ) がアップされたものである。原典は削除された。
キーワード
奈良県、大淀病院、産科、産婦人科、子癇、転送、搬送、放置、脳内出血、受け入れ拒否、死亡、医療崩壊、三大事件、医療事故、医療訴訟、刑事訴追、周産期救急医療、一人医長
これまでの情報を検討してみる。
1. 本事件で受け入れを断った医療機関にまで、刑事捜査の網がかかる。
2. 本事件の医師の判断は、果たしてミスと呼べるだろうか。
3. 奈良県の救急医療体制は、見かけ程ではない、現場の医師から見ればお粗末な体制しかない。
4. 原育史大淀病院長は当事者である医師個人に責任を押し付けようとしている。
5. 事件が起こってから 2 ヶ月がたっての報道と刑事捜査の開始である。
6. マスコミ報道は真実を伝えていない。タイトルの付け方すら、悪意ある煽動だ。
以下に、現時点で、マスコミ報道から読める事、公的なウェブサイトから把握できる情報を基に検証する。
大淀事件 01 ( 20061019 / 01:11 ) | 旧 奈良産科転送事件 で紹介した某所からの情報は、直接ここでは取り入れていないが、参考にして頂きたい。
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1. 本事件で受け入れを断った医療機関にまで、刑事捜査の網がかかる。
1) 本件の母体を受け入れて加療できるレベルはどういう医療機関か。
2) そういう医療機関は、奈良県大淀町、五條市近郊に何軒もあるのか。
3) そういう医療機関が、いつでも救急を受け入れることができるキャパシティを維持し続けていられるようになっているか。
本件では、子癇にせよ脳内出血にせよ、産科だけでは対応できない。産科、脳神経外科は複数の医師が同時に、麻酔科、小児科の医師も同じく待機していて、ICU、NICU 双方に空床があって、他に手がとられる重篤な患者がいないか少なく、看護スタッフも受け入れが可能で、手術室スタッフがすぐに手術室を稼働できて、そこで始めて、今回の結果以上のものが期待できる。
最初に担当医が転送を打診した県立医大、県立奈良病院、この 2 病院が、奈良県内で本件のような重篤な妊婦を受け入れる可能性のある所だった。この 2 病院しか元々なかった上に、この 2 病院では上記の条件が揃わなかった。大淀病院の産科医が子癇として転送先を探したのであったとしても、脳神経外科という条件を付けていたにしても外していたとしても、これだけの条件はなかなか難しいだろう。
県立医大、県立奈良病院、この 2 病院のキャパシティは、いつでも上記の条件を揃えられていなかったのか。理想ではそうだが、現実には、病床稼働率は 100% に限りなく近くないと採算の取れない公的医療保険の設定である上に、100% を超えてもペナルティがある。
さらに、奈良県の周産期救急医療は、一次、二次と崩壊が進み、三次の医療機関に全てのしわ寄せが来ていた。奈良県が組んでいた周産期救急の 5 病院 ( 県立医大、県立奈良、国立奈良、天理よろず相談所、近大奈良 ) のネットワークも有名無実と化していた。
それでも現場の医師は、労働基準法無視の労働で救急を支えている。3 交代勤務のシフトを組めるほどの人員がいないことは、奈良県立医科大学産科婦人科のウェブサイト http://www.naramed-u.ac.jp/~gyne/ を見れば分かる。スタッフは教授以下、大学院生まで入れて 14 人しかいない http://www.naramed-u.ac.jp/~gyne/menu5.html。
ならば、この 5 病院以外の二次レベルの医療機関は、こういう患者を受け入れられる能力がないだろう事は容易に想像がつく。
もともと奈良県のこの地域の医療圏は、大阪の医療圏内でもあった。ただ、上で触れたような医療体制は、大阪府内でもそう多くはない。十指が余ってしまうだろう。それぞれが、各科、各部門のマンパワーを一気に集めることができる条件になければ、受け入れても結果がより不幸になるだけだ。
脳内出血にしても、子癇後脳出血にしても、急激に意識レベルが悪化した場合の、母体の予後は悪い、子癇なら児の予後まで悪い。国立循環器病センターをもってしても、この事例の児だけしか助けることができなかったと言うのが、まだ適切な言い方ではないだろうか。
ところが、奈良県警は、当日、各医療機関が本当に受け入れ態勢になかったかどうかを調べるという。嘘ついて断ったと見ているわけだ。奈良県下を始め、本件受け入れの打診があった大阪府下の各医療機関の医師たちは、憤慨したり、やりきれなくなったり、逃げ出したくなっているだろう。そういう当事者の意識は、こういう現場に立ったことがあるものでないと分からない。ジャーナリストや評論家の言の、何と空虚な事か。
福島県立大野病院事件、奈良県大和高田市立病院事件の前例がある。全力を傾けて医療にあたっても逮捕されたり、刑事被告人にされたりするのだ。こうなると、受け入れられないだけでなく、受け入れても診る自信がない、そういうレベルで拒否が起こってしまう。さらに刑事訴追を受けるなら、自信がないというだけで容疑をかけられるなら、そういう現場に居合わせたくなくなっても不思議ではない。
責任を追及するなら、こういう救急医療体制しか構築できない国、奈良県を始めとした行政府にメスを入れるのでなければならない。すなわち、県立医科大学の設置者である奈良県知事、厚生労働大臣の責任を追及してしかるべきだ。
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2. 本事件の医師の判断は、果たしてミスと呼べるだろうか。
子癇前症は妊娠女性の 5%、子癇は子癇前症の患者 200 人に 1 人の割合で起こるという。4000 人に 1 人だ。ならば子癇の診療経験が豊富な産科医、というものが少ないことが分かる。子癇なら母児共に急激に危険になる。未治療だと通常致死的である。母胎の死亡率 10% 程度、児の死亡率は 30% 程度という。
陣痛や分娩時に頭蓋内出血を起こすことは、ほとんどないとされている。脳実質内出血は、高血圧、特に、妊娠中毒症、子癇や脳動静脈奇形が原因の場合が多いとされている。ならば子癇を第一に考え、子癇に続発する脳内出血や、あるいは他の要因による脳内出血の可能性を次に考えて無理はない。
脳内出血は、子癇がない状態で起こり、この患者さんは子癇でなかったのか。あるいは子癇に続発した脳内出血なのか。真実は伝わって来ない。解剖がなされていて、その上に医学的、科学的検証を経ないと、軽々しく担当医のミスとはいえないはずだ。
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抗けいれん剤、鎮静剤の投与も難しい。安静にして刺激しないようにし、分娩可能なら、帝切をもってしてでも出産を急ぐのが最善であるという。本件の産科医は、子癇なら動かせない、動かせるなら最低限 1 回の移動でと考えても無理はない。CT を撮っても撮らなくても、搬送を急ぐ事に変わりはない。それで搬送に賭けたと見ても不思議ではない。
緊急事態の現場での専門家の判断が刑事訴追される事の無意味さは、そろそろ言い尽くされて来た。
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搬送の依頼は、本件医師の派遣元、奈良県の周産期救急ネットワークの基幹たる奈良県立医大のスタッフが主に行った。だからこそ広い範囲にわたって搬送先を当たることができたのだ。また本件医師も独自に搬送先を当たっていたという。当直室に引っ込んでいる間も、いろいろと思慮を巡らし、搬送依頼の電話をかけ、奈良県立医科大学と連絡を取っていた事だろう ( 仮に仮眠していたとしても、労働基準法上は有り得る行為だが )。
さらにこの間も子癇に対する対処、治療を行っていた。さぼっていた、ほったらかしにしていたわけではないのだ。水を飲んだりトイレへ行く事すら、責められなければならないのだろうか。
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搬送依頼を始めてから、内科医からの CT 撮影のアドバイスがあったという。撮っても撮らなくても同じ、動かす事は危険。CT 撮像のために母体を動かすこと自体が大きなリスクなのだ。
また、CT はすぐに撮影できたのか。放射線技師が院内に常に待機している体制なのか。おそらくこの規模の病院でそれはないだろう。オンコールの放射線技師を呼び出して、機械をスタンバイしなければならない。搬送依頼に時間がかかると思っていなければ、CT よりも搬送をより重視して無理はない。
脳神経外科医が一名いるが、この脳神経外科医も院内に常駐しているはずはない。オンコールだろう。また呼び出した所で、この病院では何もできない。CT を撮影していたらその読影くらいにしか役に立たない。
放射線技師と脳神経外科医を呼び出すためにかかる時間と母体を動かすリスクを考えたら、この CT を撮らない方がいいという判断もまた、緊急事態の現場での専門家の判断と言ってもおかしくはないだろう。
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3. 奈良県の救急医療体制は、見かけ程ではない、現場の医師から見ればお粗末な体制しかない。
上述、および前記事の通り。
» 大淀事件 02 ( 20061019 / 12:08 ) | 旧 奈良産科転送事件 2
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4. 原育史大淀病院長は当事者である医師個人に責任を押し付けようとしている。
事件の真実の究明はそんなに簡単ではないだろうに、なぜ、急いで、担当医のミスと断言してしまうのか。この院長の過去には、威張れないものがあるようだが。
担当医個人の責任にしてしまうことの無意味さは、医師が一番、肌身で感じているはずなのに。
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5. 事件が起こってから 2 ヶ月がたっての報道と刑事捜査の開始である。
なぜ今、明るみに出て、しかも警察が迅速に動き出すのか。ここは謎である。
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6. マスコミ報道は真実を伝えていない。タイトルの付け方すら、悪意ある煽動だ。
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毎日新聞 2006.10.17
病院受け入れ拒否:意識不明、6時間“放置” 妊婦転送で奈良18病院、脳内出血死亡
asahi.com 2006.10.17
奈良の妊婦が死亡 19病院が転送拒否、6時間“放置”
Sankei Web 2006.10.17
意識不明の妊婦、18病院が転送拒否 8日後死亡
YOMIURI ONLINE 関西発 2006.10.17
出産で意識不明、18病院受け入れ断る…1週間後死亡
YOMIURI ONLINE 2006.10.17
出産で意識不明、18病院受け入れ断る
女性、1週間後死亡
TBS 2006.10.17
19病院たらい回しにされ妊婦が死亡
神戸新聞 共同 2006.10.17
処置遅れて出産後に死亡
日刊スポーツ 2006.10.17
処置遅れて出産後に死亡、転送拒否続く
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まず、本件では意識を失ってから国立循環器病センターに到着するまでが 6 時間だ。その間、子癇に対する治療が行われていた。担当医は、搬送先をあたったり、一息ついたりはしながらだが、ほったらかしにはしていなかった。
また、たらい回しではない。言葉の使い方すら怪しいテレビ局があるようだ。
初期の報道は以下の通り。
» 大淀事件 01 資料 | 旧 奈良産科転送事件資料
真実に近いと思われる情報はここ。
» 大淀事件 01 資料 4 | 旧 奈良産科転送事件資料 4
刑事事件になってしまうと、正確な情報は、もう、関係者からは伝わって来ないだろう。真実が明らかになることはなく、再発防止策に資する事もなく、だれか末端の現場の者が罪を着せられて、終わってしまう。
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再度、参考リンクを挙げておく。
18病院が受け入れ拒否(大淀病院妊婦死亡事案) http://www.yabelab.net/blog/2006/10/17-124111.php ( 元検弁護士のつぶやき 2006.10.17 )
前門の虎 後門の狼 http://anesthesia.cocolog-nifty.com/freeanesthe/2006/10/__f8b9.html ( freeanesthe )
奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題 http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2006/10/post_d6f6_2.html ( ある産婦人科医のひとりごと )
分娩中意識不明:18病院が受け入れ拒否…出産…死亡 http://nakaikeiji.livedoor.biz/archives/50746946.html ( 医学教育でのひとりごと )
産科医療の崩壊 http://kenken1997.cocolog-nifty.com/pediatrician/2006/10/post_cb26.html ( 小児がんと生きること )
今ある命も救えない「医療制度改革」、そしてマスゴミの偽善 http://ameblo.jp/shionos/entry-10018473207.html ( 大和ごころ。ときどきその他 )
その日が来たか・・・ http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061018 ( 新小児科医のつぶやき )
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大淀事件 01 ( 20061019 / 01:11 ) | 旧 奈良産科転送事件
大淀事件 02 ( 20061019 / 12:08 ) | 旧 奈良産科転送事件 2
以下、参考資料
大淀事件 01 資料 | 旧 奈良産科転送事件資料
大淀事件 01 資料 2 | 旧 奈良産科転送事件資料 2
大淀事件 01 資料 3 | 旧 奈良産科転送事件資料 3
大淀事件 01 資料 4 | 旧 奈良産科転送事件資料 4